カッコよく文学を語る

文学に限らずカッコよく語ることはとても楽しい

この記事は、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語っているという設定です。 一方通行に語りかける形式で書いているので、この文章のまま、あなたも、お友達、後輩、恋人に語っることが出来ます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『鮨』岡本かの子〜「お母さんに会いたくなる」と、可愛らしく〜

 

『鮨』岡本かの子

岡本かの子を語る上でのポイント

①女性らしい優しい文体

②母を感じさせる

の2点です。

①に関しては、一般的に、男性はかっこつけなので難しく分かりにくい表現を使う、一方女性は感覚的に読みやすい文章を書くと言われています。あくまで通説です。一般論です。岡本かの子のそれはとても女性らしい文章でして、素晴らしく優しく読みやすいです。

岡本かの子は、芸術家岡本太郎の母親です。文章を読んでいると、あんな闊達な人間を育てた、その懐の広さ、おおらかさを感じます。

 

以下会話例

「そうなんだ。なに読んだの。あ〜いきなりそれは確かに飽きちゃうね。うん、やっぱり最初は読みやすいのとか興味がある分野じゃないとなかなか難しいよ。

 

おすすめか、そうだな。今一人暮らしだよね?そしたら、岡本かの子がいいよ。岡本かの子岡本太郎っているでしょ、太陽の塔作った、芸術は爆発だ、の人。その人のお母さん。その岡本かの子が書いた『鮨』っていう短編小説。一人暮らしの男性にめちゃくちゃおすすめ。

 

話はね、ともよっていう鮨屋の娘さんがいるんだけど、その子が湊っていう常連のおじさんにちょっとして恋心を抱くんだよね。どこが好きかというと、どこなく知性を感じられて、他のお客さんとはちょっと世界が違うところなんだって。鮨屋の主人であるともよのお父さんもそれは感じてて、湊に注文されると少し緊張した返事をするらしいのよ。まあそんな湊が好きですよ、っていうところから話は始まるの。

 

そんなある日、ともよがお使いをしにいくと、湊を見かけるのね。ともよは急いで追いかけて、野原でお話ししましょうよって言って野原に行くの。まあ2人の共通点は鮨だから、何気なく、湊からお鮨を好きになったきっかけを聞くんだけど、ここがすごいいいんですよ。正直ここに至るまで色々取り巻きのこととか語られるんだけど、それはもうどうでもよくて、こっから読んでほしい。次実際読むときは、前半は飛ばしていいよつまんないから。まあそれは言い過ぎだけど、本当にここだけでも読んでほしい。

 

湊少年はね、小さい頃ものすごくガリガリに痩せてたの。それは貧乏だからとか病気だからって言うわけではなくて、むしろ名家出身でお金は結構あったんだよね。そしてもともと病気持ちでもない。なんでガリガリだったかと言うと、極端な潔癖症だったの。もう異常なほどの潔癖症。食べ物を口に入れて飲み込もうとすると、誰かがその食材をベタベタ触ったこととか想像しちゃって全部吐き出しちゃうんだよね。だから全然食べられなくて、ガリガリになっちゃってた。本人もできれば空気を食べて生きていきたいって思ってたくらいなの。

湊少年はそんな調子でガリガリに痩せてるから、ある日、お母さんが学校に呼び出されて、虐待を疑われちゃったの。それをお父さんに報告したら、古い家で昔のことだから、家庭で起きた問題は母親のせいだろって、先生もお父さんもお母さんを責めるんだよね。湊少年はお母さんが好きだったからいたたまれなくなって、夕ご飯の時に一生懸命食べようとするんだけど、やっぱり全部吐き出しちゃう。その吐いたの見て、お姉さんとお兄さんがいるんだけどうわってめっちゃ嫌そうな顔するのね。お父さんもちらって見るんだけど、知らないふりして何も言わず日本酒飲んでる。そしてお母さんは悲しい顔して、もう、湊はお母さんに申し訳なく思うんだよね。でも体が拒絶反応起こしてどうしても食べられない。だから今度は自分を責めるんだよね。

 

で、そんなある日、お母さんが縁側に新しいゴザを引いて、湊を呼ぶの。そして新品の包丁とまな板とお皿を用意して、よく洗った手を広げて手品師のように裏表湊に見せるの。そして、「手はこんなに綺麗。そしてここにあるのは道具一式全部新品だよ。」って言うのね。そして桶に入ってるお米に酢を入れてコンコンむせながら混ぜていって、そこからひとつかみして形整えて、上に焼き卵を乗せて、「はいお鮨だよ自分の手で掴んでお食べ」、って湊の前にあるお皿の上に置くんだよ。湊はパクって食べると、するするって喉を通っていって、もう嬉しくってお母さんに擦り寄りたくなるんだよね。でもなんだか気恥ずかしくて、そしたらお母さんがもっと食べたいかい?って聞くからニイって笑う。そしたらイカ、鯛、ヒラメの鮨をどんどん握ってくれて。湊はもう食べ物を食べられた嬉しさと、その美味しさと、新しい感覚と、お母さんへの愛でもうウキウキしちゃって、ヒッヒッヒって甲高い声で笑って空をかくの。もうめちゃくちゃいいでしょ。涙出るでしょ。僕が今まで読んだ本で、こんなにも母親の愛情を美しく書いた小説他に知らないわ。

 

その日から湊はだんだんと普通のご飯も食べられるようになって、中学に入る頃には、体はたくましくなって皆が振り向くほど美しい青年になった。

 

って言うお話。ね、お母さんに会いたくなったでしょ。今週の土日に実家帰って顔見せてあげな。」