カッコよく文学を語る

文学に限らずカッコよく語ることはとても楽しい

この記事は、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語っているという設定です。 一方通行に語りかける形式で書いているので、この文章のまま、あなたも、お友達、後輩、恋人に語っることが出来ます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『人間失格』太宰治 〜「俺のことを書いたものだと思う」と、どっぷり浸かる〜

 

人間失格太宰治

 

太宰治の作品を語る上でのポイント

①「太宰」と呼ぶ

②読んだ瞬間に自分のことを書いているんだと思ったと言う

太宰治は笑いのセンスがあると言う

の3点です。

 

①に関して、通の人がモノの名称を省略するのはどの分野でも適用されます。文学でもしかり。「太宰」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。

②に関しては、太宰治の文学を好きな人が声を揃えて言う感想です。「俺は太宰治の生まれ変わりだ」とまで言っちゃっても良いです。

③に関しては、近年、芸人で文筆家の又吉直樹さんが語る太宰治の像です。確かに太宰治の短編を読むとユーモアがあって素直に笑えます。

 

以下喫茶店での会話例

「じゃあ俺はホットコーヒー。君は?オッケー。すみません、ホットコーヒーとアイスティーお願いします。はい。

え、オススメの本?色々あるけどな、君にオススメするのはそうだな、超王道だけどさ、太宰の『人間失格』かな。

 

読んだことある?あ、そうなんだ。これ俺のこと書いてると思うんだよね。いやほんとに。まあお話は、頭が良くて顔も良い葉蔵という少年が”自分の感覚と人の感覚が違う”っていうこと気づくところから始まるんだよね。どう言うことかっていうと、皆と同じ体験をしても、友達が喜んでる、悲しんでる、お腹へってる、皆が感じている感覚が理解できないんだよ。人間が理解できない。そこにとてつもない恐怖を感じる。これ、意味わかる?俺はすごいわかるな。みんな笑ってるけど俺ひとり笑ってなかったり。みんな泣いてるのに俺には面白く感じちゃってたり。でもさあ、それって変じゃん。付和雷同の日本じゃ許されないじゃん。みんな泣いてるのに俺1人笑ってるって。だからさ、俺は本当の自分を隠してるんだよね。実は葉蔵も同じことやってるんだよ。皆とのずれを悟られないように、わざと道化を演じて人を笑わせる。でも心の中では凄い悲しいこととか深いことを考えてる。そんな青年の物語なんだよ。ね、おもしろいでしょ。

 

あ、ありがとうございます。砂糖大丈夫です。

 

それで話は進んで、中学校に上がった葉蔵は、やっぱり道化を演じてる。道化を演じることで皆と一緒の感覚になれる気がするんだよね。でもある日それが崩壊するんだよ。体育の授業で鉄棒をやるときに、葉蔵は我先に皆の前で見本を見せるんだけど、わざと尻餅ついて皆を笑わせるの。クラス全員笑ってる。先生も笑ってる。でもそんな中、竹一というクラスメイトに、耳元で、『わざわざ』って呟かれる。めちゃくちゃ怖いでしょ。恐怖。葉蔵は血がさっと引いてくのがわかった。皆との”ずれ”を悟られないように、道化を演じてる。それは完璧に遂行されなきゃいけないのに、演じていることが見破られてしまった。これって葉蔵にとっては世界が崩壊するのと一緒なんだよ。嘘がバレてしまったから。千と千尋で、千尋が息を止めてハクと一緒に橋を渡る感じだよね。息したら人間ってことがバレる。これと一緒。まあ葉蔵の場合、逆に妖怪であることがバレてしまうんだけど。

 

それで葉蔵は次にどうしたかと言うと、女性や煙草、酒に溺れていくんだよ。人間が理解できない葉蔵は、最初は道化を演じることで自分を隠す。これはあくまで俺の解釈だけど、次は人間を理解しようとしたと思うんだよ。女性、煙草、酒。人間がハマるものに自分もハマってみる。人間への恐怖心をこれらで和らげようという意図もあると思うんだけど、今度は人間を演じてみようと思ったところもあるはず。俺もさ、皆が良いっていう曲聞いたり、漫画読んだりそういうことしてみたもんな。そう言うところが重なるんだよね。

 

そしてね、ここが一番強く打つところなんだけど。葉蔵はヨシ子という女性と結婚を決めるんだよ。その人は、葉蔵が通ってた煙草屋の娘なんだけど、これがまあ本当に純粋で良い女性なんだよね。葉蔵は幼い頃から人が理解できず疑って生きてきた。一方、眩しいほど人を疑うことを知らない純真無垢なヨシ子。その世界に葉蔵は惚れた。人が理解できず恐怖していたけど、このヨシ子なら分かる。いや、自分をわかってくれる。そう思った。この時、葉蔵はヨシ子を通して、初めて、人間というものが理解できた気がしたんだと思うんだよね。少しずつ人間を信頼してもいいのかもしれないって。凄い成長だよね。本当の自分をひた隠しにしていた1人の男が世界を肯定し始めた。

 

そんな2人は一緒に暮らしていたんだけど、ある夜とても悲しいことが起こってしまう。当時葉蔵は漫画家として働いていたんだけど、ある日、その仕事関係の人にヨシ子が犯されてしまうの。人を信頼することしか知らなかったヨシ子の世界が崩された。それ以来ヨシ子は、あらゆる言動に怯えるようになってしまう。葉蔵にとっては二度目の世界の崩壊。葉蔵はまた心を閉じてしまう。人間を信頼してもいいかもしれない、と思ってた矢先に、やはり人間は信頼していけないという結論にたどり着く。信じようと思ってたモノに裏切られる。たしかにこれは絶望だよね。

 

話はそろそろ終わるんだけどね、結果的に葉蔵は睡眠薬を大量に飲み自殺をするの。ただ、死ねなかった。自殺は成功しなかったんだよ。葉蔵は数少ない友人に病院に連れていかれる。その病院は脳病院で、そこは精神に異常がある人が入る施設だったんだよ。そこで葉蔵は悟るんだよね、他人に異常者だとみられるということは、やはり自分は狂人なのであり、人間として失格なのだ、ってね。人間失格。これで終わり。

 

結局太宰本人はさ、人間失格を書き終えた1ヶ月後に入水自殺しちゃうんだよね。俺、わかるんだよね。なんで太宰が死ななければいけなかったのか。まあ長くなるから今は話さないけど、太宰、いや、人間誰しもが持つ”弱さ”だと思うな。

 

でも、ここまで聞くと、太宰ってすごい暗い人のイメージ持ったんじゃないかな?そうだよね。でもね、実は太宰ってすごいユーモアがあって、仮に自殺なんてしなかったら、ビートたけしとかさんまさんと一緒にバラエティ番組でトークしてたんじゃないかなって思うんだよ。いや、ほんとに。太宰の短編に『お伽草子』っていうのがあるんだけど、funny的な面白さがあるんだよ。本当に。私生活でも太宰は実は30歳で総入れ歯だったんだよ。ね。すごいでしょ。で、飲みの席で入れ歯をパカって外して笑いとってたんだよ。すごいでしょ。絶対面白い人だったんだよ。

 

あ、もうこんな時間だ。じゃあ行くか。」